研究の背景
 宇宙機器の故障及び寿命は,ほとんどの場合,接触面における潤滑不良及び潤滑剤の消耗による.
1994年のきく6号の失敗や宇宙開発30年の歴史における多くの失敗例はこれら接触面の摩擦制御の重要性を浮き彫りにしている.
 さらに,現段階における宇宙開発において宇宙機械の長寿命化は必須命題である.
 即ち,接触面における潤滑技術(摩擦制御,寿命の制御)は,将来の宇宙機器の鍵を握る技術であり,革新的な新技術の導入が不可欠である.

トライボコーティング法の可能性
 地球上において被覆した固体潤滑剤により摩擦を制御し,これが摩耗したときに宇宙機器の寿命に達するという従来の方法に対し,宇宙空間において随時(地上からの制御も可能),自在に固体潤滑膜をトライボコートすることにより宇宙機器の半永久の寿命を保証することが可能となる.
 現在,トライボコーティング国際宇宙ステーションロシアサービスモジュールにてトライボコーティング膜の宇宙環境曝露実験を遂行中であると同時に米国NASA,John H. Glenn Research Centerでも,1999年より,同手法の開発研究を開始しており,実用化の期待の高い先駆的な技術であると認識されている.

本研究で提案するトライボコーティング潤滑は,宇宙機器のみならず,寿命にともなう摺動要素の交換を極力避けたい機械
(原子力発電用摺動要素,種々放射線の放射下での摺動要素等)の無保守化のためのキーテクノロジーとなると考えている.

 1989年,加藤らにより提案された真空機器のための新しい潤滑法:その場修復型固体潤滑法(トライボコーティング法)の実用化を目標としている.
 本手法により,従来の固体潤滑剤(軟質金属)より低いすべり摩擦(摩擦係数=0.02)を実現し,その特性を半永久に持続できることを実証している.さらに,転がり軸受けにおいてもその有効性を実証し,現在,宇宙機器と医療機器への応用研究を進めている.
真空機器のための
トライボコーティング潤滑法の研究開発

宇宙機器のためのトライボコーティング法の開発

 研究の背景
 レントゲン撮影装置やCTスキャン装置など,X線を利用した医療装置は,その性格上,低騒音であることが要求される. この装置の騒音の主たる発生源は,X線管内の回転陽極部に用いられる玉軸受の摩擦振動であり,静粛な医療機器のための摩擦振動の少ない玉軸受が必要となる.この玉軸受は,高速,高温,高真空下で稼動するとともに導電性が要求されるため,現在は,玉に鉛,銀などの軟質金属を用いた固体潤滑が主に用いられている.それ故,騒音レベルの低い潤滑膜の形成法やそのための具体的条件の明確化が求められている.その1つとして,より安定した低摩擦振動のためのなじみ過程の制御が急務の課題となっている.
 
トライボコーティング法の可能性
 トライボコーティング法は,軟質金属潤滑膜の形成をリアルタイムで制御し,低摩擦を実現し得る固体潤滑膜形成法としての有効性が実証されており,摩擦振動の抑制効果もお起きに期待される.
 現在,低摩擦振動のための鉛のトライボコーティング膜の最適成膜条件を明らかにし,従来用いられているイオンプレーティングによる鉛膜潤滑による医療機器用玉軸受との比較において摩擦振動抑制のためのトライボコーティング法の有効性が実証されている.

医療機器のためのトライボコーティング法の開発
解説記事

宇宙機器のためのトライボコーティング
日本トライボロジー学会誌, トライボロジスト, 44 (1999), 39-45.
足立幸志, 加藤康司

真空中トライボコーティング による摩擦の制御
日本真空協会誌, 真空, 42 (1999), 804-808.
足立幸志, 加藤康司

トライボコーティングによる超高真空中における摩擦の制御
月刊トライボロジ, 新樹社出版, 12 (1999), 39-41.
足立幸志, 加藤康司

論文

宇宙機械用トライボコーティング潤滑の基礎研究
日本機械学会論文集 (C編), 62  (1996), 3237-3243.
加藤康司, 金亨資, 足立幸志, 古山秀之

TRIBO-COATING FOR FRICTION CONTROL IN ULTRA HIGH VACUUM
Proceedings of  International Symposium for High Performance of Tribology, Teagu, Korea, (1998), 61-65.
K. Adachi, K. Kato and T. Oyamada

RELIABLE DESIGN OF SPACE SYSTEM IN TRIBOLOGY VIEWPOINTPROCEEDINGS OF THE TWENTY-SECOND INTERNATIONAL SYMPOSIUM ON SPACE TECHNOLOGY AND SCIENCE, 1 (2000), 593-598.
Koshi Adachi and Koji Kato

招待講演・話題提供

超高真空中のトライボロジー
日本機械学会第74期通常総会講演会ワークショップ(機素潤滑設計部門),1997年 3月29日-4月 1日, 東京
足立幸志

宇宙機械のためのトライボコーティング
宇宙開発事業団機構部品研究会, 1998年 3月25日, 角田
足立幸志

トライボコーティングによる摩擦の制御
日本トライボロジー学会第3種研究会第2回固体潤滑研究会, 1999年 7月27日, 東京
足立幸志
Friction control by Tribo-Coating for space machines
International Workshop on Space Tribology in 21st Century, Sendai, Japan 18 April, 2000
Koshi Adachi
一般講演(予稿集)
超高真空中におけるトライボコーティング膜の形成機構
(社) 日本トライボロジー学会トライボロジー会議, 金沢, 1994年10月.
足立幸志, 加藤康司, 黒田圭司
超高真空中におけるトライボコーティング膜の基本的トライボ特性
(社) 日本トライボロジー学会トライボロジー会議, 東京, 1995年5月.
足立幸志, 加藤康司, 小山田具永
超高真空中におけるトライボコーティング膜の潤滑特性
日本機械学会東北支部八戸地方講演会, 八戸, 1996年9月.
足立幸志, 加藤康司, 小山田具永
超高真空中におけるトライボコーティングの摩擦制御に関する基礎研究
日本機械学会東北支部第33期総会・講演会, 仙台, 1998年3月.
足立幸志, 加藤康司, 小山田具永

Tribo-Coating for Friction Control in Lutra High Vacuum
Int. Sympo. for High Performance of Tribology, Teagu, Korea, May 29-30, 1998.
K. Adachi, K. Kato and T. Oyamada

Reliable Design of Space System in Tribology Viewpoint
22nd Interational Symposium on Space Technology and Science, Morioka, Japan, May 28-June 4, 2000.
K. Adachi and K. Kato

In-situ Tribo-Coating for Friction Control in Ultra High Vacuum and Its Low Friction Mechanism
2000 Gordon Research Conference on Tribology, Plymouth, New Hampshire, USA, July 2-7, 2000.
K. Adachi and K. Kato

Lubrication of Ball Bearing By In-Situ Tribo-Coating in UHV
International Tribology Conference, Nagasaki, Japan, Oct. 29-Nov. 2, 2000.
K. Adachi, R. Suzuki, K. Kato and S. Obara

Tribo-Assisted In-Situ Coating of Indium on Stainless Steel Disk Sliding Against Si3N4 Ball and Its Effect on Friction in High Vacuum
International Tribology Conference, Nagasaki, Japan, Oct. 29-Nov. 2, 2000.
K. Adachi and K. Kato
トライボコーティング法による転がり軸受の潤滑
(社) 日本トライボロジー学会トライボロジー会議, 東京, 2001年5月.
足立幸志, 鈴木論道, 加藤康司, 小原新吾

Active Control of Friction by In-situ Tribo-Coating for Space Mechanisms
International Tribology Conference, STLE 2001, Orlando, USA, May 20-24, 2001.
K. Adachi and K. Kato

トライボコーティング法による超高真空中摩擦制御の研究
日本機械学会東北支部第37期総会・講演会, 仙台, 2002年3月.
足立幸志,渋谷裕行,加藤康司

 事前に被覆した固体潤滑剤により摩擦を制御し,これが摩耗したときに真空機器の寿命に達するという従来の方法に対し,使用環境において随時,自在に固体潤滑膜をトライボコートすることにより真空機器の半永久的寿命を保証するものである.
この新技術はすでに米国(Patent No.5080195)及びヨーロッパ(Patent No.374958)において原理特許を取得している.

トライボコーティング法