耐摩耗設計のための摩耗マップと摩耗機構の解析(基礎研究)
セラミクスの耐摩耗設計指針の確立(セラミックスの摩耗マップの構築)
先端的コーティングのための耐摩耗評価手法の標準化(摩耗形態マップの構築)
トライボロジー特性の制御に基づく機械設計(実用研究)
超音波モータを駆動源とする電子ビーム描画装置用超精密位置決めX-Yステージの開発
トライボコーティング潤滑法を用いた自己修復型宇宙機器用玉軸受けの開発
液晶分子配向用ラビング布評価のためのトライボシステム加振法の開発
摩擦制御技術と摩擦機構の解析(基礎研究・実用研究)
セラミックスの水潤滑による超低摩擦の発現と
セラミックスの水潤滑における耐焼き付き性向上のための表面テクスチャリング設計マップの構築
窒素ガス吹き付け潤滑による摩擦制御のための窒化炭素膜の開発
セラミックスの耐摩耗設計に関する研究(セラミックスの摩耗マップの構築) | |
概要 | セラミックスは従来の工業材料では実現できない優れた耐摩耗性を示す.機械の構造部材,特に耐摩耗を求められる機械要素部材としてセラミックスが強く期待される所以である.しかし一方で,セラミックスの摩耗は材料因子,力学的因子,環境因子により複雑に変化する多因子敏感現象であり,これらの因子のわずかな変化により突然,従来の工業材料と同等もしくは,それ以上の激しい摩耗状態に遷移する. これまでのセラミックスの実用の多くは,試行錯誤の結果によるものであり,セラミックスを耐摩耗部材として用いるための設計指針は得られていなかった. このような背景のもと本研究は,セラミックスを用いたトライボシステムの耐摩耗設計のための基本指針として,発生する摩耗形態の「定量的分類基準」と,従来材料より優れた耐摩耗性を示す摩耗形態の発生条件を明示する「摩耗マップ」を実験と理論に基づき提案し,その定量的有効性を実証した.これは,多因子に敏感な摩耗に対しセラミックスの耐摩耗設計指針を世界で始めて定量的に明示したものといえる. 後述する超音波モータを駆動源とする電子ビーム描画装置用超精密位置決めステージは,本研究成果を元に設計され,実用化に成功した一例である.今後も耐摩耗設計のための基本指針として有効に活用されることが期待される. |
関連事項 | 受賞:日本機械学会論文賞 (1999年) 日本トライボロジー学会奨励賞 (1998年) |
代表文献 | ・K. Adachi, K. Kato, N. Chen, Wear map of ceramics, Wear, 203-204
(1997), 291-301. ・足立幸志, 加藤康司, 陳寧, セラミックスのWear Map (第1報,摩耗形態の分類-マイルド摩耗・シビア摩耗-), 日本機械学会論文集 (C編), 63 (1997), 1718-1726. ・足立幸志, 加藤康司, 陳寧, セラミックスのWear Map (第2報,マイルド-シビア摩耗形態図の構築), 日本機械学会論文集 (C編), 63 (1997), 2448-2455. ・足立幸志, 加藤康司, 耐摩耗材料としてのセラミックス, マテリアルインテグレーション, ティー・アイ・シィー出版, 13 (2000), 35-40. ・日本トライボロジー学会編,セラミックスのトライボロジー,養賢堂出版, (2003). |
先端的コーティング材の耐摩耗評価手法の標準化のための摩耗マップの構築 |
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概要 | DLC,ダイヤモンドをはじめとして油を使用せずに低摩擦,耐摩耗を発揮する硬質薄膜の研究が急速に進んでおり,コーティングのトライボロジー特性の把握と同時に耐摩耗コーティングに対する材料設計指針が求められている.このような背景のものと「先端的コーティング材の耐摩耗評価手法の標準化」がEUのプロジェクトとして遂行されている. 本研究は,標準試験機として有望なMicro-scale abrasion testerにおいて発生しえる摩耗形態の発生条件を明示する「摩耗マップ」を実験と理論に基づき提案し,その定量的有効性を実証した.これは,再現性のある安定した摩耗結果を得るための摩耗形態(Three-body abrasion mode)が発生する定量的条件を測定条件と材料特性を含む2つの無次元パラメータにより明示したものであり,今後,標準化されるコーティングの耐摩耗評価のための測定条件設定,材料選定の基本となるものである.この成果は,ヨーロッパの「先端的コーティング材の耐摩耗評価手法の標準化」の主たる結論であり,標準化のための測定条件設定として採用される見込みである. |
関連事項 | |
代表文献 | ・ K. Adachi and I. M. Hutchings, The Wear mode mapping for the micro-scale
abrasion test, Wear, 255 (2003), 23-29. |
超音波モータを駆動源とするEB描画装置用超精密位置決めX-Yステージの開発 |
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概要 | 次世代の超LSI製造や光ディスク製造で用いられるEB(電子ビーム)描画装置では,高精度な位置決めに加え高スループットが不可欠である.このため真空中における大型の高速位置決めステージの開発が強く要求されている. これに対し,摩擦力を駆動源とする超音波リニアモータは,小型で高トルクであり,ダイレクトドライブによる高精度な位置決めが可能な上,非磁性であるためEB描画装置用の真空中でも使用可能である.それゆえ従来の電磁モータでは実現不可能な真空中における大型高速位置決めステージの駆動源として期待される.しかし,超音波リニアモータは,摩擦駆動であるため摩擦駆動部の摩耗によって位置決め精度の信頼性と耐久性が支配される. 本研究では,この摩擦駆動部に高純度のアルミナセラミックスを用い,セラミックスの摩耗マップ(主たる研究成果の1番)をもとにした摩耗形態制御のための最適なピン形状設計,最適押し付け荷重設定及びをすべりの抑制手法を開発した.これにより,真空中で長期間安定した精密位置決めを可能にする超音波リニアモータ駆動型の総セラミックス製高速・高精度位置決めX-Yステージを世界で初めて実現した.開発したXYステージは,簡素化と高精度化を同時に満たすものであり,従来機の1/2の小型化と3倍の位置決め精度を実現した(詳細はこちら).本精密位置決めステージは,現在,EB描画装置用の位置決めステージとして実用化されるに至っている.今後,ナノテクノロジーを支える超精密決め技術としてさらにMRIなどの医療機器用の位置決め機構としての展開が期待される. |
超音波モータ駆動型電子ビーム描画装置用精密位置決めステージ(京セラ,東北大学) |
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関連事項 | 国際特許申請:2件 国内特許申請:9件 関連受賞:日刊工業新聞十大新製品賞 (2000) NTT通信エネルギー研究所研究開発賞 (2000) |
代表文献 | ・K. Adachi, T. Yamaguchi and K. Kato, Tribologically-Based Design of Precise
Positioning Stage, Poc. of the 29th Leeds-Lyon Symposium on Tribology, 2003 Elsevier Science B. V., TribologySeries, Tribological Research and Design for Engineering Systems, (2003), 461-468. . ・足立幸志, 超音波モータ摩擦材の摩耗制御, 超音波TECHNO,日本工業出版,13 (2001), 31-35. ・竹之内一憲,足立幸志, アルミナの電子ビーム露光装置用超音波モータへの応用, 日本セラミックス協会誌, セラミックス, 37 (2001), 39-41. |
トライボコーティング潤滑法を用いた自己修復型宇宙機器用玉軸けの開発 |
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概要 | 宇宙機器の故障及び寿命は,ほとんどの場合,接触面における潤滑不良及び潤滑剤の消耗によるものであり,1994年のきく6号の失敗や宇宙開発30年の歴史における多くの失敗例はこれら接触面の摩擦制御の重要性を浮き彫りにしている. さらに,現段階における宇宙開発において宇宙機器の長寿命化は必須命題となっており,接触面における摩擦制御,寿命の制御のための革新的な潤滑技術の導入が不可欠である. これに対し,本研究では,宇宙空間において潤滑材の自己修復機能を有する玉軸受を開発する.これまでに,その基本潤滑法であるトライボコーティング法により,従来の固体潤滑材と同等,もしくはそれ以下の摩擦係数(ころがり摩擦:0.002程度,すべり摩擦:0.02以下)を実現し得る最適成膜条件を明らかにし,その半永久寿命の可能性を実証している. 現在,国際宇宙ステーションロシアサービスモジュールにてトライボコーティング膜の宇宙環境曝露実験を遂行中であると同時に米国NASA,John H. Glenn Research Centerでも,1999年より,同手法の開発研究を開始しており,実用化の期待の高い先駆的な技術であると認識されている. さらに,本手法は,摩擦振動の低減による騒音の抑制にも有効であることが実証され,静粛性が要求される医療機器への応用も期待されている. |
関連事項 | 宇宙実験:国際宇宙ステーションロシアサービスモジュールにてトライボコーティング膜の 宇宙環境曝露実験遂行中(詳細はこちら) 関連受賞:若林拓也(修士1年):日本トライボロジー学会最優秀講演賞 (2002) |
代表文献 | ・加藤康司, 金亨資, 足立幸志, 古山秀之, 宇宙機械用トライボコーティング潤滑の基礎研究, 日本機械学会論文集 (C編), 62 (1996), 3237-3243. ・Koshi Adachi and Koji Kato, RELIABLE DESIGN OF SPACE SYSTEM IN TRIBOLOGY VIEWPOINT, PROCEEDINGS OF THE TWENTY-SECOND INTERNATIONAL SYMPOSIUM ON SPACE TECHNOLOGY AND SCIENCE, 1 (2000), 593-598. ・足立幸志, 加藤康司, 宇宙機器のためのトライボコーティング, 日本トライボロジー学会誌, トライボロジスト, 44 (1999), 39-45. ・足立幸志, 加藤康司, 真空中トライボコーティング による摩擦の制御, 日本真空協会誌, 真空, 42 (1999), 804-808. |
液晶分子配向用ラビング布評価のためのトライボシステム加振法の開発 |
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概要 | 液晶ディスプレイの高表示品質と量産性の鍵を握る「摩擦材:ラビング布」の選択及び設計のための定量評価手法を開発し,その有効性を実証した. 液晶ディスプレイの製造工程では,「ラビング布とディスプレイ基板間の摩擦の制御」がその高表示品質と量産性の鍵を握っている.それは,通常採用される製造工程において,基板に負荷された摩擦の大きさによって表示品質に直結する液晶分子の配向力が決定されるからである.しかし,摩擦された基板上における液晶分子の配向機構に関する理論的知見が不十分であるだけでなく,基板全体に与える摩擦の制御が困難であるため,摩擦材の選択から摩擦条件に至るまで,その工程の多くは試行錯誤の結果行なわれているのが現状である.それ故,液晶ディスプレイ業界では,高表示品質とその量産性のための「ラビング布とディスプレイ基板間の摩擦の科学的かつ工学的制御」が強く求められている. 本研究では,摩擦力及びその均一性に影響を及ぼす因子としてラビング布の毛並み方向,剛性及びラビング布面内におけるそれらの均一性に着目し,これらを簡便かつ定量的に評価する手法:トライボシステム加振法を開発した.さらに現場における過去の経験的知見との比較において開発した手法の有効性を実証した. 今後,ラビング布の最適設計,ラビング条件の最適設計,さらには,ラビング布の管理基準設定のための定量評価手法として期待される. |
関連事項 | 受賞:日本トライボロジー学会論文賞 (2003) 日本機械学会東北支部技術研究賞 (2003) 第2回世界トライボロジー会議ベストポスター賞 (2001) |
代表文献 | ・足立幸志, 加藤康司, 液晶配向用ラビング布評価のためのトライボシステム加振法の開発,
トライボロジスト, 46 (2001), 477-484. ・足立幸志, 液晶ディスプレイにおけるラビングむらの制御技術, MATERAIAL STAGE, 技術情報協会出版, 1 (2001), 62-67. ・足立幸志, 液晶ディスプレイ製造におけるトライボロジー, 月刊トライボロジ, 新樹社出版, 11 (2001), 22-24. |
セラミックスの水潤滑による超低摩擦の発現と セラミックスの水潤滑における耐焼付性向上のための表面テクスチャリング設計マップの構築 |
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概要 | 油を潤滑剤としてしゅう動される金属と比較し,セラミックスは水を潤滑剤として摩擦係数0.001オーダの非常に低い摩擦を与える.さらに,セラミックスのトライボケミカル反応に起因した平滑化と接触界面における生成物により,油を潤滑材とする場合と比較し,より実用的な低い摩擦係数を示す.一方,水は従来の潤滑材である油と比較し粘度が著しく低いため耐焼き付き限界荷重が低い.実用化のためにはこの焼き付き限界荷重の改良が強く求められている. これに対し,表面に微小なピットを施すことにより,焼き付き限界荷重を大幅に増加できることを実証した.さらに,焼き付き限界荷重を増加させる最適ピット設計のために2つのパラメータ(ピットの割合とピットの形状)を導入したセラミックスの水潤滑のための"Load Carrying Map"を提案した. 今後,潤滑油の廃棄に伴う環境汚染問題がクローズアップされている現代,水潤滑システムは環境に優しい機械機器のしゅう動要素として期待される. |
関連事項 | |
代表文献 |
窒素ガス吹きつけ潤滑による摩擦制御のための窒化炭素膜の開発 |
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概要 | 1997年梅原,加藤らにより窒素ガス雰囲気下における窒化炭素膜と窒化ケイ素のすべり摩擦において無潤滑状態にもかかわらず油潤滑と同等の0.003の低摩擦係数が発現することが発見された.さらに窒素ガスを吹き付けるだけの方法により低摩擦が得られる可能性が示され,より簡便な潤滑法として期待される.しかし,窒素ガス吹き付け潤滑においては,窒素ガスの吹き付け条件のわずかな違いにより摩擦特性は大幅に変化し,より安定した低摩擦を得ることが困難である. これに対し本研究では,窒素ガス吹き付け時に安定した低摩擦を与えかつその低摩擦を長期間持続することができ,かつ2桁早い速度での成膜が可能な窒化炭素膜を実現した.これにより,窒素ガスを接触界面に吹き付けるだけで容易に0.01以下の低摩擦が得られることを保障した. 今後,油や摩耗粉が問題となる固体潤滑剤の使用が困難なマイクロマシンをはじめとする小型機器の潤滑法として期待される. |
関連事項 | 関連受賞:森田泰史(修士2年):日本機械学会東北支部独創研究学生賞(2002) 豊川伸(修士2年):日本機械学会東北支部独創研究学生賞(2003) |
代表文献 | ・Koji Kato, Noritsugu Umehara and Koshi Adachi, Friction, Wear and N2-Lubrication of Carbon Nitride, Wear, 254 (2003)1062-1069. |