東北大学 工学研究科 機械機能創成専攻 共同研究講座

先端自動車トライボロジー材料研究

― 持続可能なクルマ社会に向けたエネルギー効率向上のためのナノ界面制御 ―

研究内容

「ナノ分析」と「実機の材料開発」を結ぶ材料研究

 エンジンのシリンダボアの表面には、油膜の安定的な形成のためにクロスハッチと呼ばれる格子状の溝が切られています。その突部(プラトー部という)をさらに細かく観察してみると、ナノレベルの凹凸を持つ表面形状が存在しています。また最表面にはエンジン油中の添加剤が反応してできた反応膜が存在しています。

 しかしながらこの凹凸は初期から存在していたものではありません。シリンダボアがピストンリングと摩擦をし、表面が“なじむ”過程で出来たものです。これらのナノレベルの構造がどのように出来たかは明確になっていません。

 当共同研究講座では、このようなナノレベルの表面凹凸や反応膜が、摩擦過程でどのように出来るのか、またその構造が材料などによってどのように変化をするか明確にすることにより、摩擦面が形成されるメカニズムを明らかにします。これにより機械の低摩擦や高信頼性のために、「潤滑油」「材料」「表面設計」それぞれをお互い活かしあうシステムに結び付けるための研究をしています。

摩擦面のナノレベルの分析による原理原則の理解

なじみ制御に基づく低摩擦界面形成技術の開発

 エンジンオイルは、近年低粘度なものが主流になっています。これはエンジンが高速で動く条件では油の粘性損失が多く、粘度を下げることが最も摩擦低減に寄与するからです。一方で低粘度の油を使用することで、必要なときに油膜の形成が出来ず、表面同士が当たってしまうことがあります(これを境界潤滑といいます)。表面同士が当たるような摩擦条件下でも焼き付きなどを起こさないために、エンジンオイル中には様々な添加剤が含まれています。

 しかしながらエンジンオイルの添加剤は摩擦する材料や表面の形状によって低摩擦効果が異なることが知られています。その要因を明らかにすることは、今後の材料開発にとって重要な研究課題です。

 本研究では摩擦後に出来た反応膜と材料の界面に着眼することにより、どのような過程で添加剤が反応したか明らかにしています。例えば材料中にクロムを多く含む材料は、反応の過程で出来たと思われるクロム酸化物(不動態)が存在し、このような材料では低摩擦物質(二硫化モリブデン)がより形成しやすいことを明らかにしました。このような知見は実際の材料の開発にも活かされています。

Cr量が多い金属程Mos2が生成・配向し易く定摩擦になる

エンジンにおける低摩擦システムのための材料開発

 実際のエンジンには表面の粗さが存在し、またもちろんエンジンの回転数や気温など摩擦する条件も異なります。このため、摩擦してできる反応膜も面内で均一ということはあり得ません。一方で摩擦や摩耗の特性は、それらの条件で摩擦したシステムの応答特性である故、面内での分布を考慮した設計論が必要になります。

 当研究では、元素のマッピングはもちろん、低摩擦物質である二硫化モリブデンの配向性の分布、硬さなど機械的特性の分布のデータを集め、良い摩擦特性を示すための理想的な分布状態とは何か考えています。

 このような知見は将来的に、粗さだけでなく最適にパターニングした表面性状の指針などにつながることが期待されます。

エンジンにおける低摩擦システムのための材料開発

ギアや軸受の信頼性向上のための材料設計指針

 ギアや軸受など転がりと滑りが混在するような条件で摩擦する機械は,非常に面圧が高く、表面の疲労にようよる摩耗形態が一般的です。今後ギアや軸受も益々小型化し高面圧化が進行するため、より一層深刻な課題となってきます。一方で疲労摩耗はその進行を観察することが難しく、現象が明確には分かっていません。

 本研究ではエンジンの研究で培った摩擦界面を観察する手法により、ギア油やグリースなどの潤滑油中で摩擦後に出来た反応膜や、疲労による細かな亀裂(マイクロピッチング)を観察、分析し、ピッチングの起点やその進行がどのように起こったのか推定をします。そのような実験とともに、ナノレベルの転がり接触モデルを再現した分子シミュレーションにより、接触部のどこで、どのような条件で反応が起こりうるのか明らかにします。

 このような分析は、マイクロピッチングを防ぐためにギア油の添加剤の反応をどう制御すれば良いかという知見につながり、添加剤の処方や新規材料の開発、表面設計の最適化などの技術応用へ期待されます。

ギアや軸受の信頼性向上のための材料設計指針

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